第36回 学力低下(2)

■OECDの生徒の学習到達度調査に続いて国際教育到達度評価学会(IEA)の調査結果が発表されました。各国で無作為抽出された小4、11万人あまり、中2、22万人あまりを対象にした算数・数学と理科のテスト。参加者平均を500点になるように統計処理した結果、小4の算数は565点(前回比2点減少、3位→3位)、小4理科は543点(前回比10点減少、2位→3位)、中2数学は570点(前回比9点減少 5位→5位)中2理科は552点(前回比2点増 4位→6位)という結果になりました。

■ OECD調査とあわせて日本の子どもたちの学力低下を実績で見せられた文部科学省は14日小中学校などの授業時間を増やすため、標準授業時間の見直しの検討に着手したそうです。ただ、「ゆとり教育」方針転換へ動くかどうかはまだ、わかりません。これまで30年近くやってきたことを自己否定することが、果たして文部科学省にできるでしょうか。ただ、ここまで数字を突きつけられると、日本の子どもたちの学力低下は明らかです。中山大臣は率直に、「生きる力を育てようとしたが、必ずしもそうなっていないことは反省しないといけない。このままでいいのだろうかという全体的な見直しをしなければいけない」と発言していますが、どうなるでしょうか。

■現実、公教育に対する不信感が保護者に出てきていることは間違いないでしょう。中学受験率は実は、毎年10%増ぐらいのペースで伸びてきているのです。首都圏でいえば、来年は15%(100人のうち15人が中学受験をする)を突破するでしょう。これは首都圏(1都3県)での統計ですから、都心に近いほど受験率は上がり、クラスの半分以上が受験する学校も多いと思われます。

■ただ、私立なら大丈夫というわけでもありません。現在のデーターで言えば四谷大塚偏差値52以上の学校を受験する生徒が受験生のほぼ63%を占めます。つまり、受験する以上は上位校という流れになっていて、何が何でも私立という流れまではいっていないようです。だからこそ、ここで文部行政は何らかの手を打たなければなりません。

■特に初等教育での大きな間違いは子どもの能力差を認めないこと。順位をつけるということを小学校時代はなるべく避けます。しかし、違いがあるからこそ個性があるのではないでしょうか。あいつは絵がうまい、あいつはサッカーが上手だ、あいつは算数ができる、いろいろな差があって、それを認め合う教育が大事なのではないかと思うのです。

■塾はよく、偏差値や順位で並べます。先生、教室、椅子、全部成績で決まる塾も少なくありません。このやり方をして怖いのは、それがすべての価値だと思われることだけです。「でも、あいつには、運動ではかなわない。勉強ができるだけじゃ、もてないしなあ。」そういう多元的な価値観が子どもたちに備わっていれば、塾が偏差値や順位で並べたところで、one of them にすぎなくなるのです。

■いかに子どもに違いを認めさせるか、これは国際教育の中でも重要な観点だと思います。かつて世田谷学園の故山本校長に「なぜ、アメリカやカナダに修学旅行にいくのですか?」と伺ったとき、意外な回答が帰ってきました。「カナダは人種のモザイク、アメリカは人種のるつぼです。しかしひとつの国として成立している。いろいろ問題はあるでしょうが、しかし違いを認めて、国を創っています。違いの認め方がカナダとアメリカでは違うのです。だから中3でカナダに行き、高2でアメリカを見せる。それぞれの国の個性の生かし方を、考えてもらいたいからです。」

■国際化教育の中でもっとも大事なのはこの考え方なのではないでしょうか。単に英語が話せても、国際社会の中でいきることはできない。違いを認めること。そこから自分も理解することができ、だから足りないところを何とかしようとか、もっとこういうところを伸ばそうとか、考えられるのではないでしょうか。日本は同質性にこだわって、これまで力を発揮した部分がありました。しかしその同質性が現在進んでいる多元的、複雑系社会の中では限界を露呈している部分もあるのです。そういう意味で教育改革が必要な時代になっているのです。教育は国力を生み出す源ですから、より多くの国民が真剣に考えていかなければならない問題です。

(平成16年12月16日)

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