失敗した学校選び

 学校選びはなかなか難しいものです。実際にお父さん、お母さんが手にすることのできる情報はわずかですから、入学してから「こんなはずではなかった」という面がやはりでてきます。いくつかの例をご紹介しましょう。

(1)スクールカラーが合わない
管理型というのは、子どもの成績や学習をしっかり管理しますから、保護者からすれば面倒見がよく見えます。しかし、子どもたちにとってすれば、学習の負担が大きくなる分、反抗期もあいまって学校の先生のいうことを聞かなくなり、宿題もやらず、成績が落ちるケースが出てきます。面倒見がいいはずだからそこでいろいろと学校の先生がやってくれると期待していたのだが、学校に呼び出されて「家庭教師をつけるか、個別指導にいくか、家庭でフォローをしてください。さもないと、進級させられません」などといわれる場合があります。管理するばかりでなく、フォローをどうするのかということもきちんと聞いておかなければならないでしょう。
 
 逆に放任型は、何でも自由にさせてくれる分、「勉強しなくてもいいや」と勘違いしやすい環境です。

 放任型の学校に入ったA君。学校の勉強は宿題もなく、レポートもないので、入学後は毎日あるサッカーのクラブ活動に熱中していました。しかし、中間テストや期末テストの対策の仕方がよくわからない。そのために1学期で大きく失敗してしまいました。だからといって先生から何かをいわれるわけでもないので、「まあ、こんなんでもいいか」という気になって、相変わらずクラブ活動に熱心でした。

しかし……1年生の終わり、進級会議でやはりA君の成績はひっかかってしまいました。先生に「留年するか?」といわれて、お母さんはびっくりです。あわてて家庭教師を頼み、何とか学年末試験だけはクリアしましたが、本人の意識はまだまだ。私学の費用に加えて、家庭教師の費用もかかり、お母さんにとっては二重に頭の痛い事態となってしまいました。いくら放任型でも「やらなければいけないことは、ちゃんとやる」ようにしつけていかないと放任型の長所を享受できないでしょう。

(2)宗教的学校行事がいや
 
 Bさんはキリスト教系の学校に入学しました。学校説明会では「宗教的な行事は特になく、『聖書の時間』があるだけです」といわれていたのですが……。

 実はその聖書の時間がBさんにとってはとても大変でした。学内の教会の施設で毎朝1時間、聖書を読む時間があるのですが、おとなしくしていないとすぐ怒られてしまいます。活発なBさんは、友達と話したり、クスクス笑ったり。すぐにシスターに目をつけられてしまいました。

 機会があるごとに怒られるのはBさん。本当はほかの子も悪いのでしょうが、結局目に付くのはBさんのことで、シスターは「また、あなたですか!」という目で見るそうです。Bさんはだんだん、その時間が苦痛になってきました。そしてついに聖書の時間をサボるようになってしまったのです。学校としては、それは決して許せないことでした。

 結局Bさんは公立に戻ることになりました。キリスト教系の学校はたくさんありますから、独特のカリキュラムのことも事前によく子どもたちには話しておく必要があるでしょう。実際におとなしくしていなければいけない場面でそうできないと、目をつけられてしまうのは当たり前のことです。

(3)付属校からの大学進学

 C君は大学付属校に入りました。中学、高校とそこそこ成績もよく、学校生活も楽しめたのですが、大学受験を考えるころになって、附属の大学に自分が行きたい学部がないことに気がつきました。もし、その学部に行こうとすれば、附属の大学の推薦は断って、大学受験をしなければなりません。高校2年のとき、彼は両親に頼んで大学受験の準備を始めることにしました。
 しかし……毎日、クラブ活動や友達と遊ぶことに時間をかけていたC君が、その環境で大学受験準備をたった一人ですることはなかなか難しかったのです。高校3年のときも、塾や予備校にあまり通うことができず、結局浪人してしまいました。そしてここからが大変でした。いままで成績は悪くないといっても、学校のテストしか経験がない分、なかなか受験勉強がうまくいかないのです。結局2年間かかってようやく合格したのですが、彼が行くことができた大学のレベルよりはだいぶ下になってしまいました。
「受験校にはいってりゃ、よかったなあ」とは彼の弁ですが。

 大学付属校から別の大学を受験するケースは多くないのですが、「受験したい」と思う生徒はけっこういるようです。結局、いろいろ考えた挙句、大学受験をしようと決断する子はあまり多くはありません。
大学入試が多様化したとはいえ、大学受験に関して受験校が有利なのは当たり前ですから、先先のこともしっかり考えておきたいところです。

(4) 通史を習わない

 放任型の学校に通うD君。中高とまずまずの成績ではあったのですが、授業で一度も通史をならうことがありませんでした(通史というのは日本史なり、世界史なり古代から始まって時代ごとに学習していく勉強方法です。多くの学校の歴史の授業はそうなっているはずです)。その学校は先生が独自にシラバスを作るので、中学のときの歴史は江戸時代だけを研究するテーマになり、高校でもレポートばかりで通史を最初から習うことができませんでした。

 文系志望の彼にとって、世界史も日本史は大事な科目ですが、結局、通史を習ったのは一浪後の予備校ででした。通史を習わない分、本来は自分でその勉強をしなければならなかったのです。もちろん、そのことは先輩たちから聞いていたものの、自分で具体的に行動に起こすことができなかったのが失敗のもとでした。

 これは学校にもよりますが、シラバスを学校全体で一体となって作る場合と、ある程度教員に任せてしまう学校があります。管理型の学校ではシラバスを学校が作り、それにしたがって教員が授業を進めていくということになりますが、放任型の場合教員にシラバス自体を任せるケースがあります。そうなると、先生の方で関心のある専門分野に限って勉強させるという授業も出てくるのです。

 これはメリットもあります。たとえば大学の専門分野の研究がどういうふうに行われるのか、中学や高校で体験することができるからです。しかし、いざ受験ということになるとやはり入試問題を解いていかなければならない分、通史のような勉強の仕方が必要になるのです。

 最近、私立中高に塾や予備校のサービスが提供されるようになりました。たとえば予備校の衛星の授業を学校内で視聴することができたり、インターネットのテレビ電話で質問ができるシステムを校内で利用できるようになったりしています。また補習の授業を担当する先生が塾から派遣されてくる場合もあるようです。

(5) 厳しかった運動部

 大学受験で定評のある進学校に進んだE君。中1から野球部に籍を置きました。けっして強いクラブではないので、そこそこの練習だろうと思ったのが大間違い。練習は毎日、筋力トレーニング、朝練と続き、帰ってくればもう勉強どころではありません。くたびれて風呂場のなかで寝てしまったことも何度か。だから成績もあまりよくはありませんでした。しかし、先輩たちに「部活が続けられないようでは、勉強もだめだ」といわれ、とにかく部活を一生懸命やりました。
 その結果中学2年、3年と部の中心になり、そうなると野球がおもしろくてたまらない。先輩と同じように、「部活動が続けられないようでは勉強もだめだ」といって、下級生をしごきます。ただふと気がついてみると、成績は地を這うレベルになってしまいました。下級生にみっともない成績は見せられないと発奮したE君。何とか中学3年では真ん中くらいまで、もどったのですが、中学野球を引退して、高校野球に行ったらまた同じことの繰り返し。今度は「甲子園」が目標ですから、本当に大変な練習でした。しかも結局高3の夏まで部活部活できてしまったので、大学受験に使えたのは半年だけ。部活動でまたまた成績が下がっていたE君は結局、浪人しました。

 しかし毎日練習していた環境から、毎日勉強ばかりする環境への対応はE君君にはむずかしかったようで、結局二浪して大学に入りました。本当は、現役で入って大学でも野球を続けたいと思っていたのですが、体育会系は難しく、同好会で野球を続けているそうです。本人は野球づけだった中高生活を悔やんでいるわけではありません。むしろそれだけ集中できたことに誇りも自信も持っています。ただ、「もう少し器用にやれたのではないだろうか」と時々思うのだそうです。


「中学受験、合格して失敗する子、不合格でも成功する子」(田中貴)

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