与えることの難しさ

私も塾講師生活が長いので、つい教えてしまうことが多いのですが、いまの子どもたちには「与えれば、自分で得ることをしなくなる」という面が顕著に見られます。
ノートを見ていると、図を描くのが下手な子が増えました。なぜ下手なんだろう、と思っていて気が付いたことがあります。いまは子どもたちがプリントやテキストで問題を与えられます。それを解いて解答や解説を読んで理解することが多いのです。先生の解説を聞いてノートをとる時間がもったいないからというわけではないでしょうが、テキストに書いてあることをまた書き写すことをしないから、勢い図を書く機会が減ってしまうのです。

応用問題になればなるほど、自分なりに図を書き直してみる技量が必要になります。速さであれば文意をグラフにすることが解法につながる場合が多いし、立体は別方向から見た図がヒントになるでしょう。

自分で図を書かせることにもう少し時間を割く必要があると思います。私の授業では、ホワイトボードにその場その場で子どもたちに必要だと思われる問題を書き、子どもたちに写して解いてもらうことにしています。いわゆる「白板問題」です。これは当然、その場で問題を作るので指導員にとっては与えられたテキストを教えるよりしんどい作業ですが、その分子どもたちはいろいろな技量が得られるでしょう。

中1が期末の対策のために塾にやってきました。
彼は中高一貫校に通っています。今年の1月までは私が教えていた子ですが、わからないことができたので質問に来たのです。

彼が持ってきたのは、その学校が作った教科書。
説明や問題は書いてあるのですが、その問題の答えも書いてなければ解説もありません。

「この問題は先生が解説してくれたでしょ?」
「はい、そうです」
「そのノートは?」
「ここにあります」
彼は自信をもってノートを差し出しました。
しかし……彼のノートは先生が書いたであろう幾何の図を写しているだけで、肝心の答えは何も書いていない。
「この図を書いてくれたときに、どういう説明だった?」
「え、あ、その……」
つまり彼はそのときは理解したつもりでノートには書かなかった。]

こうなると始末が悪いのです。この幾何の問題は、いろいろな解法があり得るのです。問題は先生がどう教えたか、ですが、ノートもなく、解説・解答もなければどうしようもありません。
結局、複数の解法の説明をし、かつクラスで1人や2人はいるであろう、ノートをきれいにとっている子から情報を取ってくるように指令を出しました。

ノートのとり方がまだ、十分でない。この子はサービスが良い塾から出た生徒なのです(ええ、もちろん私の塾の話です)。
そういう塾では、テキストに答えも解説も載せている。
しかし、この学校の授業はそういうサービスの良さはいっさいありません。

なぜか? 授業を真剣に聴かせるためです。
「与えてしまうと、自分でできるようにはならない」

サービスの悪い授業は、子どもたちをタフに育てるものなのです。

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