入試待合室

塾に入社して1年目か2年目の受験の日。

社命が下りました。「入試が終わるまで、入試待合室で待機せよ。」

「うん?なんでだ?」

と思ったら、その年、入試の解答を出すことになっていたらしいのです。つまり、発表された問題をいち早く手に入れて、近くから塾にFAXを入れろ、ということのようで。

「ふーん、そういうことか」

ということで、仕方がないから、その学校の待合室で待っておりました。

そりゃあ、若いころの話ですから、明らかに周りからは浮きます。そのうち、知っているお母さんが、近づいてきた。

「先生、ありがとうございます。ずっとついていてくださるなんて。」

うーん、大きな勘違いだあ、と思いつつも、まあ、否定するのもなんだからそのままいまして。

しかし、待合室というのは、特に何をするわけでもないから、待機中、ずっと本を読んでおりましたが、あれはお父さん、お母さんも結構大変だなあと思います。といって入試中、何かあっても、基本的に学校が対応するので、そこで保護者を呼び出すことはありえないのです。

ただ、一往復するのが大変であれば、お待ちいただいてもいい、ということですが、今は多くの方が一度送られたら、いったんお帰りになられる場合が多いでしょうか。コーヒーショップにでも行った方が、暖房が利いていていいかもしれません。だいたい体育館が多いので、まあ、やっぱり寒いし。

で、問題が発表されると、みなさん、どっと集まる。

買われる方もいるし、掲示された問題をじっと見つめる方もいる。

手にした問題を手にFAXに向かおうとすると、まわりに人だかりができてしまいました。

「先生、どうですか?」

「いや、ここでは何なので、いったん塾で解きます。」

と言って足早に学校を離れましたが、まあ、あの時代、公衆ファックスなんてないんですよ。これが。

もちろん、携帯もない時代なので、そのまままっすぐ持って帰った方が早いと判断して、公衆電話(なつかしい!)でその旨を伝えました。

「じゃ、タクシーで帰ってこい」

と言われましたが、それはかえって渋滞になるといやなので、

「すぐ電車で帰ります。その方が早いですから。」

実際に塾につくと、ひったくられるように問題がコピー機に回り、いそいそと先生たちが解き始めました。

「やった、予想通りだ」という先生あり、「ああ、これは難しいなあ」とぼやく先生あり。

ふーん、塾って大変だなあ、と思ったものです。

あれから×十年。

その風景は実は、あまり変わっていないのです。

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